コズミックアートミラは、「作り手の想いが伝わる」を大切に、世界中の作り手より集めた作品を展示・販売するアートショップ&ギャラリーです。
思わず手にとってしまうような個性的なデザインはもちろん、素材や製造過程にこだわりを持って展開されている素敵なブランドの作品が、小さな宝箱のようにぎゅっと詰まっています。
今あなたが手に取ったその商品。
それらが生まれて、あなたの元まで届く、その過程のストーリーを少しだけ覗く事で、商品へのより一層深い愛着を抱くきっかけになれば…。
連載コラム「&Cosmic art Mira」ではそんな気持ちを込めて、作り手の皆様の思いをご紹介していきます。
今回お話を伺ったのは、青森県津軽地方に伝わる伝統文化「こぎん刺し」を小さなアクセサリーなどに仕立てているcrescent moonさん。
*現在はブランド名を古今商店さんとして活動されています
crescent moonでは、就労継続支援A型事業所として様々な障がいを抱える方々に一般企業などでの就職に向けた訓練の機会を提供しています。
その一環として取り組んでいるのが「こぎん刺し」製品の製作なのです。
「働く」って何でしょう?障がいのあるなしに関わらず、生活を営む人々の永遠のテーマですね。
事業所に通う方一人ひとりの働き方を考えサポートする温かいブランドの取り組みや、その温もりがそのまま表れたようなこぎん刺しアクセサリーたち。
たくさんの人々の気持ちが込められた手仕事のストーリーをご紹介します。
■こぎん刺しのはじまり
こぎん刺しとは、青森県津軽地方に伝わる伝統文化です。
麻の栽培が盛んだった地域で、貧しい農民は木綿の暖かい着物を着ることが許されず、厳しい冬も粗悪な麻布の着物で過ごしました。
目の粗い麻布は風を通しやすく、少しでも暖かくしようと目を塞ぐように刺し子を施し始めたのが、こぎん刺しの始まりです。
発祥から約三百年、青森県弘前市ではこぎん刺しの伝統技術を守っていこうと様々な取り組みが行われています。技術を伝播する為、こぎん刺しの図案集も多く出版されていて、私たちもその中から自由に選んだり、組み合わせたりしながら商品化しています。
■こぎん刺しの製作と障がい者の方々の相性は良い!
こぎん刺しは、普通の人なら飽きてしまうような単純作業の積み重ねで美しい模様を描きます。
障がいのある方には、黙々と集中して行う作業が得意な方が多く、一針一針丁寧に刺していくこぎん刺しの製作にとても向いています。
ものづくりが好きな方はもちろん、コミュニケーションに苦手意識のある方などにも取り組みやすく、事業所がスタートして一年半、多くの方から入所希望の声を頂いています。
感性を活かしてアクセサリーのデザインについて積極的に意見をあげてくれる方もいて、良いなと思ったものはどんどん取り入れて、みんなでこぎん刺しアクセサリー制作に取り組んでいます。
■手厚いサポート体制で販売できる商品を作る
入所時はほぼみなさんこぎん刺しは初めての方ばかり。
約2週間の実習期間を経て、私たち事業所側と障がいを抱えた利用者さんの双方が一緒に働いていきたいと思えるかどうか相性を確認して、雇用契約を結びます。
本場の麻布は目が詰まっていて、不揃いなものばかり。
そこに均一な間隔で糸を刺していくのはとても難しい作業なのです。
実習期間では、①目が均一で粗い布 ②目が均一で詰まった布 ③本番の麻布 の順番で少しずつ慣らしていきます。
■作業療法士さんによるそれぞれの障がいに合わせたサポート
実習期間を経てからも、働く方々の抱える障がいは様々。
取り組んでいくうちに思いがけない壁にぶち当たることもありますが、作業療法士さんと二人三脚で試行錯誤し、それぞれが無理なくこぎん刺しを続けていけるようにサポートしています。
例えばこちらのシンプルなストライプのデザイン。
色の組み合わせ次第で印象が変わり、様々なスタイルに合わせやすいとご好評を頂いておりますが、実は数を数えるのが苦手な知的障がいを抱えた方の為に発案した図案なのです。
こぎん刺しの図案には一列ずつ刺す目に変化のある複雑なものも多く、一つ間違えるだけでデザインが崩れてしまいます。
その問題を解決する為に考案したのがこちらの図案で、同じ数の目を繰り返すシンプルなデザインなので、知的障がい者の方でも間違えにくくなっています。
また、運動機能障がいの症状の一つである手の震えに悩まされる方もいました。
彼女はものを作る仕事に憧れがあったのですが、この症状故にこれまでものづくりに挑戦すること自体ハードルが高かったようです。
こぎん刺しももちろん始めは針を思ったところに刺すことができなかったのですが、クッションを用いて前腕と手首を固定することで、驚くほど安定して刺すことができるようになりました。
ものづくりに限らず、障がいを持つ方はどうしても諦めてしまう場面が多いと思います。
ここで私たちと一緒に試行錯誤して諦めずに取り組んでいくことで、一つずつ壁を乗り越えて、彼女たちの「私にもできた!」という自信に繋がると良いなと思っています。
■地域の方々との交流も生まれています
こつこつと活動を続けていく中で、地域の方から関心をお寄せ頂くことも多くなってきました。
呉服屋さんからお声掛け頂き帯留めを製作したり、つくば市からの依頼で一般の方向けにこぎん刺しのワークショップを開催することも。
ワークショップには、普段は作業にのみ取り組んでいる障がい者の方々も講師として参加しています。
新しい場所や人と交流することは彼女たちにとって大きな負担になる場合もありますが、ゆくゆくは一般企業への就職を目指す彼女たちにとって、地域の方々との交流はとても意義のあることです。
私たちの取り組みや、彼女たちが一つひとつ大切に作っている商品について広く知って頂く貴重な機会なので、これからも積極的に取り組んでいきたいと思っています。
商品をつくる障がい者の方々も、それを手に取る一般の方々も、こぎん刺しを通して幸せな時間を共有できると良いですね。